Read in about 10.2 minutes
人類が使う言語を僕達はまだ知らない。言語学ことはじめ Part.2
Contents
人類が話し扱う言語のおおよその数は?(2023年版)
地球起源の人類が話し扱う言語のおおよその数は、現在約7,100超程度とされている。
情報参照元は、キリスト教系の非営利研究機関SILインターナショナルが運営・公開しているエスノローグ(Ethnologue.com)というWebサイト。この機関は宗教観点から少数言語の保護を目的としているともされるが、多くの資料上で引用され、データが具体的かつ詳細豊富で権威性が高いと判断し、それに基づいている。
エスノローグの公表データでは、
- 2021年: 7,139言語
- 2022年: 7,151言語
- 2023年: 7,168言語
といったように言語総数が年を追って増え続けている。これは以前からのことで、エスノローグでは言語についての研究や発見による学習(再分類)、また言語の使用状況が常に流動的なことによる結果との説明がなされている。
約7,100超という数は「現存する生きた話者がいる」自然言語が対象で、すでに話されていない死語は除かれている。注意点として、例えばラテン語は古く日常話者がいない死語とされるが、現在も読み書き等で限定的に使用されていて「口語としての死語」「文章語としての死語」「完全な死語」といった分類が必要になる。ラテン語は「口語としての死語」でおそらく除外されているだろう。
また、コンピュータ=プログラミング言語や国際補助語など人工言語(非自然言語)も自ずと除かれるだろう。「人工言語」等についてはこの記事シリーズの前回Part.1で説明している。
特筆すべきこととして、毎年何らかの少数言語で最後の話者がいなくなっているという事実がある。それらは死語化=消滅した言語として、一見増加し続けている言語総数のカウントをわずかに減らしている。2021年2月からの1年間で4言語が実際に消滅、今21世紀末までに世界の言語数は約半分になるとされ、悲観すると90%もの言語が消滅する可能性もあるという。
世界の言語話者のうち半分以上が23言語のいずれかを話している
約7,100超ある言語のうち、世界中の言語話者の半分以上は23種の言語のいずれかひとつを使用しているとされる。この事実については少な過ぎるとも多いとも結論し難い部分だと思うが、現在の世界での言語の在り方やそのパターン、傾向、すなわち統合やグローバル化を表しているといえるかもしれない。
統計項目 | データ |
---|---|
世界人口 | 76.68億人(注:2023半ばで80億人突破) |
言語 | 7,168言語 |
聴覚障がい者数 | 4.3億人 |
識字率 | 84% |
「母語話者+第二言語話者」の人口ランキング(2023年版)
Rechartsを導入して、「母語話者+第二言語話者」の人口が多い順10位までのチャート図・横棒グラフを作成してみた。ちょっと見づらいかもしれないが、以下のグラフの横軸最大値は16億(1,600,000,000)人で、十億(Billion)単位になっている。1位のEnglish(英語)の数は約14億5600万人、といった見方になる。
1.英語、2.標準中国語、3.ヒンディー語、4.スペイン語、5.フランス語、6.標準アラビア語、7.ベンガル語、8.ポルトガル語、9.ロシア語、10.ウルドゥー語
以下、
11.インドネシア語、12.標準ドイツ語、13.日本語、14.ナイジェリア・ピジン語、15.エジプトアラビア語、16.マラーティ語、17.テルグ語、18.トルコ語、19.タミル語、20.粤語(えつご)…
となっている。3、7、10、16、17、19はインド国内やその周辺国で話されている言語。13位の日本語は国際的な広がりはなく、ほぼ日本単一で話されている。
国際共通語や言語話者数の変動について
英語が現代の国際共通語、もしくは異なる言語を使う多くの人たちの間での意思伝達手段(リンガ・フランカ)としてグローバルなものとなっていることは近年では公然の事実となっている。
世界帝国とも呼ばれたイギリス(British Empire)、初期にイギリス系移民が多かったアメリカ合衆国で事実上の公用語・母語となった結果、その影響力から世界中で英語が使われ、受け入れられていく下地が整ったと考えられる。また習得難易度がそこまで高くなく、柔軟性が高い言語という要因も加えられるかもしれない。
母語=第一言語だけの話者数だと標準中国語(Mandarin Chinese)が1位、英語は2位となっていて、第二言語を足し合わせた結果と入れ替わっている。中国は世界2位14億の人口を持ち、多くが標準中国語を母語・第一言語としており当然の結果ともいえるが、国際共通語としての立場はまだ英語ほどではないような気がする。
参考: 中国語の標準語「マンダリン」って何? | courage-blog
このように言語話者数の多寡や変動は、近年の国際社会における政治・経済情勢や直近の各国人口構成からの影響をダイレクトに受けており、相関関係があるものと結論付けることができそうだ。
まだまだ掘ると出てくる言語ばなし
2023年7月に世界人口1位の国はインドという発表もされ、言語関連の統計にも影響が出てくるだろう。中国やインドは広大で人口が多く、中国の七大方言(十大方言)や約200あるとされるインド言語のうち22の指定言語などから広げることで、さまざまな地域の言語・方言やその使われ方や文化を知ることにもつながりそうだ。
前出チャート6位の標準アラビア語(Standard Arabic / Modern Standard Arabic)は、おもにアラビア半島から北アフリカまでの27か国で公用語とされ、文語のフスハーと口語・大衆語のアーンミーヤに大別される。さらにアーンミーヤは国、地域ごとの変種・方言(ラフジャ)に分かれるなど、掘り下げていくことで複雑さを見せる。
総人口約1010万人、オセアニア地域の国・パプアニューギニアには何と世界の言語数の11%にあたる約800の言語・現地語が存在しているという。部族が800以上存在することから、言語数もそのような数にのぼっているとされるが、これは本当に興味深い。
掘っていくとまだまだ言語ばなしは尽きそうにないが、ひとまず言語学ことはじめは以上とする。