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人類が使う言語を僕達はまだ知らない。言語学ことはじめ Part.1
Contents
言葉を知ることのおもしろさ
言葉/言語なしでは私の日常生活は今ほど成立しないし、生きていけないのでは?とたまにそう思うことがある。
言葉のおかげですべてを情報・記号に置き換え処理し、買い物など衣食住の確保や仕事、余暇といった現実の生活行動に結び付けられている。当たり前のものとして使っていて普段は意識することさえ難しいが、現代の人間の生において前提であり、欠かせない要素だ。
また、言葉/言語について知り学ぶことは、より多くの人とのコミュニケーションや多種多様な文化への理解を可能にすると仮定できる。これが総合的な教養=リベラル・アーツの一環として、言語および言語学を私が学ぼうとする動機でもある。
ルーツや文化、その構造を知り、己自身をも知ろうとする。言葉を知ろうとする言語学にはそんなおもしろさがあるように思える。
学問としての言語
言語の歴史と系統、共通性や類似点を探り、普遍的かつ広い視野・視点を持って俯瞰を試みようとする。そのようなテーマを扱うのが言語学分類における比較言語学、歴史言語学といった分野だ。言語学はほかにも言語の音や構造、意味や機能など広範かつ包括的に扱い、研究するものだがそれらはいったん度外視する。
現時点で人類最多30億人以上の母語話者を持つとされるインド・ヨーロッパ語族という同系性、同根性を持った言語の一大グループが挙げられる。こうした「語族」や「祖語」は世界中の人類の言語を体系的に関連付け、包含し探究することにつながる。人類文明の成り立ちや発展の歴史、人類学、遺伝学といった観点からも興味深い枠組みだ。
「言語って何だ?」の私的な狭い定義、解釈
私なりに「言語とは?」という問いに対し、以下のように定義付けてみた。学ぶべき対象として範囲を収束させた定義になっている。
- おもに人間が地球上で生命活動を営む上で、主体となって用いる表現手段でありツール
- しかしながら人類だけが持っているものではなく「人間以外の動物が用いる言語」も存在する(これを扱うのが動物言語学)
- 表現できるものは、人間の意志・感情・記憶・思想、現象・事象、規則など
- おもに音声(発声。聴覚に関連)と文字・記号(記述。視覚 + 触覚に関連)によって構成される
- そのほか身体の動き、点字(立体物)、振動、発光、分子移動など情報キャリア・媒体が存在し、それらも言語になり得る
人工言語←形式言語←コンピュータ言語
さて、歴史、民族、国家、土地・地域、文化的コミュニティといった背景に基づいて思考し、人類同士がコミュニケーションする手法のみが言語を指し示すだろうか。答えは否だ。
英語や中国語、アラビア語など国家や民族によって自然発生的に形成され、用いられてきた言語を便宜上、自然言語と呼ぶ。手話も自然言語に位置付けられる。特徴として文法にそれほど厳格さを持たず、文脈や経験による解釈が必要で、文法や単語が流動的に変化を伴う場合がある点などが挙げられる。
これに対し、特定の個人や団体がある目的のために語彙や文法を作成したものを、自然言語の対義語として人工言語(または非自然言語)と呼ぶ。
人工言語の種類としては、
- 国際補助語 … 人と人とのコミュニケーションを取るために人為的に作られた言語
- 形式言語 … コンピュータ言語に代表される、人為的に作られ厳格な文法に則った言語
- 架空言語 … 本、映画、テレビドラマ、コンピュータゲームなどのために作られた言語
などがある。が、そもそも人類が生み出し使用している以上すべては人工言語ではないのか?という疑問が持ち上がってくる。自然言語とされる言語には人為的に整備され、作られた国別の標準語などが数多く存在し、エスペラントなどの国際補助語も登場の背景や解釈の仕方によって、規模の違いはあれど同じであると捉えられるためだ。ここではいったん、その興りに自然発生的な文脈・流れを汲むものは自然言語、そうでなく意図的に作り出されたものは人工言語と解釈することにする。
2の形式言語とは、数学的な文法規則(厳格で曖昧さを含まない)によって生成される人工言語のこと。コンピュータに対して用いるプログラミング言語(マシン語、アセンブリ言語、スクリプト言語など)、データベース言語、データ記述言語(マークアップ言語など)、ハードウェア記述言語、正規表現といったものを指す。私は仕事柄コンピュータ言語は扱うことも多く、親しんでいるためか自然言語との違いにも関心が高い。
言語としては比較的新しい部類のコンピュータ言語は、コンピュータの台頭もあって現在300以上の数(資料や個別の定義により異なる)が存在し、増え続けているとされる。人が日常的に話し聴き書く自然言語と、数式やコンピュータ言語をはじめとする形式言語の違いは曖昧性(厳密なルール)の有無にあるといえるだろう。
話は尽きないが、Part.2へ続く
ここまでだけでも枝葉となりそうな関連トピックがいくつか思い浮かぶ。語族や祖語についての系統と深掘り、各種言語間の語彙比較、言語は思考に影響するとした言語的相対論(サピア=ウォーフの仮説)、「言葉が世界を分節する」と唱えた近代言語学の父・フェルディナン・ド・ソシュール、そして構造主義など。また、言語学は哲学や数学、人類学などとともに横断的に学ぶ必要性も感じるが今回はこの辺りまでとする。
次はいつになるか分からないが「言語学ことはじめ Part.2」と題して、焦点をより身近な自然言語、つまり私たち人が普段話し聴き書く言語のほうに絞って統計データを例としつつ、人類と言語の状況を概観したい。